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EP10「孤高の中で」

 -12/26 PM06:35 ARS本部 司令室-

 昨夜のクリスマスムードは一転し、翌日俺たちはARS本部に集められた。

剛士郎「一昨日のことだが、リネクサスの地球圏内での活動拠点らしきものが発見された。」

 吉良が指を鳴らすと、モニターが地面に現れた。大きな世界地図が映し出され、北極大陸にズームした。
とある一つの氷山にそのズームは止まった。

剛士郎「ここがそうだ。昨日調査部隊が向ったところ、周辺に大量のエインヘイトが確認されている。
    拠点じゃなしにしても、リネクサスの重要なポイントであることに間違いはないだろう。」
雪乃「今回の任務は移動時間的にも明日までかかるわ。
   各自、学校とかには連絡入れておいてね。」
暁「マジかよ・・・。」

 今まで皆勤だったのがつぶれるのは俺にとって悔しかった。だが人類を守るため、腹は背に変えられない。

剛士郎「これも地球のため、人類のため、未来のためだ。
    皆勤賞は諦めてくれ、鳳覇君。」
暁「はぁい・・・・。って、何で俺が皆勤って分かったんだよ!?」
雪乃「鳳覇君がARSに入るに当たって、一通りの事は調べさせてもらったわ。」
暁「そ、そうっすか・・・。」

 何だかプライベートまで見られている気がして、良い気分では無かった。

雪乃「それじゃ、作戦内容について軽く説明するわね。」

 足元のモニターが一瞬にして変わった。日本列島を移している。それに赤丸がついているところはARS本部の場所だ。

雪乃「今回は神崎君と鳳覇君と鈴山さんが任務に向ってもらうわ。
   寺本君は残ってARS本部の護衛をよろしくね。」
佑作「お留守番かぁ・・・。鳳覇ぁ、頑張ってな。」

 残念そうに寺本が言った。

雪乃「移動は今回はガルーダではなく、輸送潜水艦ポセイドンで移動します。
   かなり危険な任務だから、動員数は最小限にしたいと思います。」

 モニターに大型の潜水艦が映し出された。その後すぐに北極大陸の地形図へと変わった。

雪乃「北極大陸に着いたらまずはスティルネスとルージュで周辺部隊を殲滅させます。
   その後はアルファードで一気に敵陣に突っ込んでもらうわ。
   そして、このポイントまで来たらS(サンクチュアリ)・ノヴァを使ってもらうけど・・・。」
暁「俺は大丈夫です、誰かのためにならS・ノヴァを使えます。」

 きっと海岸の事故のことを気にしてくれたのだろう。だが今の俺はあの時の俺とは違う。

雪乃「それじゃあ、お願いするわね。
   S・ノヴァを打ち終えたらスティルネスでアルファードを回収、ポセイドンに収容したら作戦終了よ。」
静流「私のスティルネスの機動性は抜群だ、安心して回収を待て。」
暁「頼みますよ、神崎さん!」
結衣「すぐに終らせて、はやく帰ってこようね!」
暁「あぁ!」


 EP10「孤高の中で」

 -PM7:12 ARS海岸基地内-

 東京湾にある埋立地の地下、とても広いこの施設はARSの海岸基地だ。ハンガー内ではポセイドンに機神たちの積み込み作業が行われていた。

輝咲「暁君、頑張ってね。」
暁「おう、まかせとけって。」

 有坂が言ったように、潜水艦への搭乗は最小限に抑えるらしいので、輝咲もメンバーから外れていた。

輝咲「それと・・・これ、お守り。」

 輝咲が俺の左腕を手にとって、手首に可愛らしい手作りの腕輪を付けてくれた。質素なデザインだが、俺にはそれがお似合いだった。

輝咲「ほんとは、クリスマスの日にあげるつもりだったんだけど・・・、間に合わなくって。」

 恥ずかしそうに輝咲が言った。

暁「ありがと、輝咲。大事にするよ。」
輝咲「うん!」
結衣「鳳覇く~ん、機神のチェックがあるからドライヴァーはハンガーに集合だって!」

 向こうから鈴山が呼んだ。

暁「あぁ、分かった!
  それじゃ、いってくる。」
輝咲「うん、いってらっしゃい!」

 軽く輝咲に手を振ると、俺は急いでポセイドン内のハンガーに向った。


 -PM07:16 ポセイドン内ハンガー-

 急いで向うと、白衣を着た研究員達が機神達に群がっていた。研究員に呼ばれ、寒冷地での戦い方を教えられた。
滑るから気をつけろ、など言われるかと思ったが、火力が減少するとか、機動性が若干下がるとか思いもしないことを教わった。
話が終ると、俺はアルファードから降りた。すると御袋がアルファードの足元に立っていた。

茜「暁、次アルファードの腕吹っ飛ばされたら給料減額ね。」

 アルファードの機体チェックをしていた御袋が言う。

暁「子供の命と機神とどっちが大事なんだよ・・・。」
淳「まぁまぁ、茜さんもそんな事言わないであげてくださいよ。
  鳳覇君、背水の陣で戦って来いってことさ。」

 笑顔でなだめる佐久間。

暁「俺の背水は金じゃないっすよ。」

 佐久間の言い方を受け入れると、まるで俺が金のために戦っているようだった。
 ふと腕時計を見ると、7:30を告げていた。少しポセイドンが揺れた。

淳「おっと、もう発進か。到着まで結構かかるからゆっくりしときなよ。」

 そう言って、淳は武器の整備の方に行った。

淳「そうだ、何なら鈴山君の所にでも行ってみたら?きっと彼女喜ぶぞ~、はっはっは。」

 急に足を止めて、それだけ言い残してまた歩き出した。からかわれているようで、少しイラっと来た。

茜「ま、チーム同士でのコミュニケーションは必須だし、行ってきなさい。」
暁「わぁったよ。」

 俺はルージュのコクピットに座っている鈴山の所へ向った。

結衣「あっ、鳳覇君!」

 ルージュのコクピットを覗き込むと、結衣が気付いた。

暁「よっ、いきなり大任務だけど大丈夫か?」

 そう尋ねては見るが、俺もこんな大掛かりな任務は初めてだ。それにS・ノヴァを任務内で使用するのも初めてだ。

結衣「う~ん、ちょっと怖いかな・・・でも、もう私は逃げないよ。」
暁「目標にした人が逃げないからか?」
結衣「ふふっ、そうかもね。
   でも今はどっちかっていうと、目標を見失いたくないからだと思う。」

 初めて会った時の鈴山とは大きく進化していた。

暁「そっか。それじゃ、俺も見失わせないように頑張るか!」
結衣「うん、頑張ろうね!」

 その時、ポセイドン内にアナウンスが流れた。

-ただいまからポセイドンは高速潜行モードに移行します、各員衝撃に備えてください-

暁「高速潜行・・・?」
結衣「何だろうね?」

 次の瞬間、思いっきり俺はバランスを崩した。どうやらその名の通り高速で移動するようだ。
慣性の法則が働き、俺は状態を維持できずに倒れこんだ。

暁「うっ!」
結衣「きゃっ!」

 少ししてようやく体がこの速さに慣れた。俺は倒れたはずなのに何故か何処も痛くなかった。
どうやらとても軟らかい物が俺を守ってくれたらしい。 

結衣「ほ、鳳覇君・・・大丈夫?」
暁「あ、あぁ・・・。」

 鈴山の声が頭の上から聞こえる。

暁(頭の上・・・?)

 恐る恐る見上げると、すぐそこに鈴山の頬が赤らんだ顔があった。つまりここは鈴山の上。
それに今俺が触っている物は――。

暁「あ、わ、わるい!ごめん!」

 俺は急いでそこからどいて、ルージュの外に出た。

結衣「う、うん・・・。」

 さすがの鈴山も今の行為には怒っているだろう。俺は謝罪の言葉以外かける言葉が見つからなかった。
とにかく俺は腰が折れるほど深く頭を下げ続けた。

結衣「も、もういいよ、鳳覇君。そんなに謝られても・・・、一応今のは事故だし・・・。
   私、全然怒ってないから。」

 そう言って笑顔を見せるが、俺にはそれが本当の笑顔には思えなかった。


 -同刻 北極氷山リネクサス基地内部-

エルゼ「遠山 真一郎、彼等はこちらに向ってきているようだ。」
真一郎「大丈夫です、こっちは必ず足止めしておきます。」

 モニターを見ながら真一郎が言う。

エルゼ「まだエインシードは試作段階だ、できればデータがほしい。
    サンクチュアリと遊んで構わない。」
真一郎「お言葉ですが、僕は暁と遊ぶつもりなんかありません。
    では、準備に向います。」

 そういい残し、真一郎は後のドアから出て行った。

エルゼ「さてと、我々もそろそろ本来の任務に戻る事にしようか。
    随分とサンクチュアリと鳳覇 暁に遊ばれたからね。」
ナーザ「インフォーマー、榊 輝咲の抹殺ですか?」
エルゼ「抹殺までしなくていいさ、ただARSにとっては勿体ないほどの代物だ。
    榊 輝咲が何もかもを話す前に蹴りをつけなくちゃならない。」

 鼻で笑いながらエルゼが言う。

ナーザ「ならば、今すぐにでも。」
エルゼ「準備は出来ているさ。なぁ、新しいドライヴァー君。」

 エルゼはパソコンのモニターに通信画面を出した。そこに映る黒髪の少年は黙って頷いた。


 -PM08:45 ポセイドン内部-

 遂に出撃の時間が訪れた。目的地はすぐ目の前だという。俺はアルファードの中で待機していた。
ポセイドンは今浮上しつつある、海面に出てから2機が発進するまであと少しだ。
 戦いの最中にさっきの事故を持ち込まないように心がけてはいるが、どうしても思い出してしまう。

暁「くそっ・・・・。」
雪乃「出撃ポイントに到着、スティルネス、ルージュ発進よ!」

 呟いた途端に通信が入った。

静流「了解、スティルネス、出る。」
結衣「ルージュ、出ます!」

 隣にあったスティルネスとルージュはすぐに俺の視界から消えた。

雪乃「作戦通り、敵防衛戦力の70%を撃墜したらアルファード発進よ。」
暁「了解!」

 俺は気を引き締めるために両手で自分の頬を叩いた。
 その時、通信が入る。

静流「こちら神崎、作戦は中止だ!」
雪乃「ど、どうしたの?神崎君!?」
静流「罠だ、この氷山全域にプリズンフィールドが埋めてある!」
暁「何だって!?」

 すぐにスティルネスとルージュの映像データが送られてきた。まさに戦時中の地雷の様にそこら中にフィールド発生装置が埋め込まれていた。

雪乃「分かったわ、すぐに帰還し・・・・待って!機人反応よ!」
暁「有坂さん!俺も出ます!」

 返答を待たずに、俺はアルファードで発進スイッチを押した。思いっきり上に引っ張られる。
ハンガーを抜けた外は、暗闇だった。だが星と月の光が凍りに反射してかすかに明るく見える。
 勿論機神には暗視モニターが着いている、俺はすぐにモードをそれに切り替えた。
 スティルネスは上空で待機し、ルージュはポセイドンの上で待機している。
急いで索敵センサーを見て、敵の位置を確認するが、その前に攻撃が来た。
 ポセイドンに当たらないように、すぐにルージュがバリアフィールドを張る。

雪乃「もう来たの?」
静流「鈴山はそのままポセイドンの護衛を。鳳覇、俺と一緒に来い。」

 攻撃の方向に飛んでいくスティルネス。俺もそれを追いかけた。すると、一部プリズンフィールドが埋まっていない場所があった。

???「待ってたよ、暁。」

 突然声が聞こえた。どうやら、その一部の領域に立っているエインヘイトからのようだ。
だがよく見るとそれはエインヘイトではなかった。長く飛び出した頭部、アンバランスの手足が不気味な形をしている。

静流「気をつけろ、新型だ。」

 スティルネスがその領域に降り立った。アルファードをその隣に着地させた。

???「僕らに飽きた後は大人たちと遊んでるんだ。
    さすが暁、最低だね。」
暁「誰だよお前!」
???「小学4年生の頃かな・・・。」
暁「っ!?」

 突然その新型のパイロットが言った言葉。その言葉だけで俺は気持ちが悪くなる思いをした。

???「健太君も、祐三君も、皆苦しんだんだよ、僕は助けてって言ったのに。
    君は結局木の上から僕を見下ろすだけだったね。」
暁「お前・・・真一郎か!?」
真一郎「そうだよ、あの日"死んだ"遠山 真一郎さ。」

 俺の胸が苦しくなった。鮮明にあの時の光景が蘇る。

真一郎「いいよね、暁は。かくれんぼが得意で。
    僕らが殺された事実からも隠れてたんだろう?」
暁「違う・・・俺は・・・・。」
真一郎「言い訳なんてしなくていいよ、僕は君を許さないから。
    僕は君を殺すためにこの"エインシード"に乗っているんだ。」

 真一郎のクスクスとした笑い声が聞こえる。

真一郎「くっくっく・・・・、もうお前となんか話すのも嫌になった。
    さっさと死んでよ、あの日の僕らみたいに、苦しみながら!!」

 エインシードと呼ばれた機体は俊敏な動きでアルファードとの間合いをつめてくる。

静流「鳳覇、何があったか知らないが奴はリネクサスだ。
   手加減はするなよ。」

 エインシードが握る薙刀の攻撃を、スティルネスは太刀で防いだ。

真一郎「青いののドライヴァー、僕は鳳覇 暁に用があるんだ。
    悪いけど・・・・。」
修「私と相手を変わってもらいますよ!」

 エインシードとスティルネスの間に接近戦用のエインヘイトが入る。

静流「くっ、またお前か。鳳覇、エインシードは任せた。」

 薙刀とエインヘイトの太刀を叩きつけ、スティルネスは後退した。それを水色のエインヘイトが追う。

真一郎「さぁ・・・・苦しみの声を聞かせてよ・・・。」
暁「やるしかないか・・・!」

 薙刀の攻撃をこちらも太刀で受け止めた。そのままアルファードの尻尾を使って攻撃をする。
だがエインシードは軽く飛び上がり、それを回避した。同時にアルファードに飛び膝蹴りを入れてきた。
 バランスを崩し、後に下がる。足と尻尾で踏みとどまり、俺はエインシード目掛けて太刀を振るった。

暁「あの時、俺は怖かったんだ!だが今は違う!」
真一郎「今がどうあったって、過去は変わらない!!」

 薙刀の一突き、腹部に損傷を負った。

真一郎「とにかく僕は、君を殺すために地獄から蘇ったんだ!!」

 薙刀を振り回し、エインシードが迫り来る。太刀で受け止めるが、力負けして胸部を切りつけられた。
この力、夜城とは違い機体性能に差があるように見えた。だが相手は機人のはず。

真一郎「なんだ・・・君はまだ力を使いきれてないみたいだね・・・。
    君は自分が持っている力からも逃げているの?」

 エインシードの腰に装備されていたマシンガンを手に取り、発砲してくる。

真一郎「臆病だね、逃げて逃げて、逃げ回る人生がそんなに楽しい?
    僕の声を無視した罰かな、くくくっ。」
暁「てめぇ・・・・・。」

 俺はエインシードを睨みつけた。

暁「さっきから死人のクセにごちゃごちゃうるせぇんだよ!!」
真一郎「っ!?」

 振り下ろされた薙刀の刃を掴んだ。拳に力を入れてそれをへし折った。
 確かに俺は逃げているだけかもしれない。だが所詮相手は死んでいる、それにリネクサスだ。
何を俺は謝罪しようとしていたのか、考えただけで馬鹿馬鹿しい。
 本当に俺が謝る相手じゃない、過去を掘り出すだけの心理戦なんかに俺は屈さない。

暁「本当の真一郎はもう死んだんだろ?ならお前は真一郎なんかじゃねぇ、ただの器だ。」

 へし折った拳でそのまま突き出たエインシードの頭を叩く。そしてそのまま怯んだエインシードを蹴り飛ばした。

真一郎「仮にも僕は僕だ、君がどう思おうが俺は君を殺す・・・。」
暁「なら殺してみろよ、返り討ちにしてやるっ!」


 -同刻 ARS本部-

輝咲「寺本さん、次は右から来ます!」
佑作「分かった!」

 俺は榊さんのオペレーティングを頼りに、ゲッシュ・フュアーでエインヘイトと応戦した。
向こうは罠、こっちが本命だったらしい。
 今は何とかゲッシュ・フュアー一機でどうにかなる量だけど、長期戦になると持たない。
それにもう一つ、夜の闇に紛れてエインヘイト・ポジトロンの長距離攻撃も度々あった。
 それでも皆が帰ってくるまでは上陸させる前に埋立地で止めなくちゃならない。

輝咲「左、陽電子砲来ます!」
佑作「んなろぉぉっ!!」

 すぐに機体をその位置からずらし、上半身を左に曲げ、両腕に内蔵されたミサイルを撃ち込む。

ヒルデ「なかなか当たってくれないわね、疑似機神のくせに。」
佑作「あんまり舐めた口叩くと痛い目みるよ!」

 続けて膝のビーム砲も放った。黄色いビームが弧を描き、砲撃があった場所に飛ぶ。

輝咲「背後にエインヘイト2機!」

 ゲッシュ・フュアーの巨大な拳を2機の頭に叩き込んだ。頭の原型が無くなり、エインヘイトは倒れこんだ。

佑作「ったく!数が多すぎるってば!」
ヒルデ「ほら僕、次はこっちよ!」

 陽電子砲の光が見えた。避けようとするが間に合わず、左腕が吹き飛んだ。

佑作「うわああああぁぁっ!!」

 巨体のゲッシュ・フュアーが埋立地にドスンと倒れこんだ。

ヒルデ「もうちょっと楽しませてくれると良かったんだけどね。
    これで終わりよ。」

 赤いエインヘイトがゲッシュ・フュアーの上に乗る。コクピットに突きつけられる陽電子砲。

佑作「くっ・・・!!」
???「佑作、ミサイル撃って!」

 突然通信から聞こえた女の声。次の瞬間、上に居た赤いエインヘイトが右側に倒れこんだ。
言われた通り、残った右手のミサイルポッドを展開し、倒れざまのエインヘイトに打ち込んだ。

ヒルデ「うぐっ!!も、もう一機!?」

 赤いエインヘイトが撃ってきた左側を見る。俺も見てみる。そこには何もいない。

???「後よ、お・ば・さん。」
ヒルデ「何!?」

 赤いエインヘイトの後ろに立つ通常の機神たちとはサイズが一回り小さい茶色の機体が立っていた。
その機体に俺は見覚えがあった、そして中に乗っている人の名を叫ぶ。

佑作「さ、桜さん!?」

 茶色の疑似機神、桜 かりんの乗る"アーフクラルング"はエインヘイトに着きつけたマシンガンを連射した。
爆発し、エインヘイトは倒れこんだ。

ヒルデ「この小娘めぇ・・・!!」
かりん「佑作、腕落ちてない?」

 アーフクラルングが手を差し伸べる。右手で掴み、ゲッシュ・フュアーを起き上がらせた。

佑作「そ、そんなこと無いですよ!」
かりん「ふ~ん。ま、どーでもいいけどさ。
    ちゃっちゃと片付けよ、アタシ日本に着いたばっかでクタクタなんだから。」
佑作「はいっ!」

 起き上がろうとするエインヘイトに俺はミサイルを叩き込んだ。爆発し、煙が舞う。

佑作「よっし!」
かりん「待って、・・・・何かいるよ。」

 煙の中から現れる漆黒の機体。一角を持つ悪魔の様な形をした機体が赤いエインヘイトを守っていた。
両刃の大剣でガードしていたらしい。

ヒルデ「レドナ!」
レドナ「ヒルデ、下がってろ。後は俺が任務を遂行する。」

 赤いエインヘイトが逃げようとする。

かりん「待ちなよ!」

 アーフクラルングがエインヘイトに向って別のライフルを構えた。刹那、ライフルが途中で真っ二つに割れた。

かりん「え・・・。」

 さっき現れた漆黒の機体の両刃剣がライフルを叩ききっていた。そのままアーフクラルングに斬りかかる。

レドナ「はぁっ!!」
かりん「きゃぁぁぁっ!!!」
佑作「桜さんっ!てめぇぇ!!」

 両足のビーム砲を漆黒の機体に向けて発射した。ビームが両刃剣で防がれる。どうやらビームコーティングが施されてあるようだ。
感心している間もなく、そのまま漆黒の機体が近づいてくる。

レドナ「もらった。」
佑作「っ!?」

 漆黒の斬撃が走る。ゲッシュ・フュアーの右腕が吹き飛んだ。

佑作「な、なんだよ・・・この力・・・!」
剛士郎「寺本君、桜君!気をつけろ、そいつは機神だ!」
かりん「ま、マジ?」

 突然の司令の通信内容に俺は驚いた。
 漆黒の機神は飛び上がり、そのままARS本部の方へと向った。

佑作「ま、待て・・・!!」

 ゲッシュ・フュアーのダメージ量が大きすぎて機体が動かない。アーフクラルングも同じようだ。


 -同刻 ARS本部 司令室-

輝咲「吉良司令!新型機神が来ます!」

 私はモニターに映る漆黒の機体を見た。そのまま窓に目をやると、すぐそこまで来ていた。

剛士郎「くっ・・・、総員緊急退避!榊君も早く逃げてくれ!」

 その言葉と同時に漆黒の機神の腕が司令室に突き刺さった。

輝咲「きゃっ!!」
剛士郎「榊君!」

 私は反射的にしゃがみこんだ。吉良司令が私に駆け寄ってくる。

輝咲(暁君・・・・助けて・・・!)

 私は必死に願った。

レドナ「動くな!」

 漆黒の機神から黒髪の青い目をした少年が降りてきた。手には銃を構えている。

剛士郎「榊君、逃げるんだ!」
レドナ「悪いが、目的は榊 輝咲だ。」

 少年は吉良司令に向けて発砲した。

輝咲「吉良司令!!」
レドナ「麻酔銃だ、お前も喰らってもらう。」

 少年の銃口が私に向けられる。

輝咲「助けて・・・暁君・・・・。」

 麻酔銃のトリガーが引かれた。

輝咲「来てっ・・・・暁君!!」

-

レドナ「何!?」

 俺は急いで外を見た、上空に現れる青い光。

レドナ「サモン・ワープ・・・・こいつドライヴァーなのか?」

 麻酔銃で眠った黒髪の少女、榊を見た。
 外では大きな物体が落ちる音が聞こえた。どうやら完全に彼女の機神がサモンされたようだ。
だが、その機神の姿は以外なものだった。

レドナ「サンクチュアリ・・・・だと。」


-

暁「っ・・・・・、こ、ここは・・・?
  はっ、ARSが!!」

 突然青い光に包まれたと思ったら、いつの間にかARS本部前にいた。そして本部に腕を突っ込んでいる漆黒の機体。
俺は急いで本部に駆け寄った。

暁「輝咲!!吉良司令!!」

 拡大モニターで機体の腕が突っ込まれている階を見た。輝咲と吉良司令が倒れている。
そして倒れた輝咲を抱きかかえ、連れ去ろうとしている黒髪の少年。

暁「夜城・・・・、やめろ!夜城ぉっ!!」

 俺は漆黒の機体にしがみ付いた。だが遅かったらしく、夜城はすでに輝咲を拉致してこの機体に乗っていた。

レドナ「鳳覇か、悪いがどいてくれ。」

 漆黒の機体の尻尾にアルファードは叩かれ、倒れこむ。

暁「てめぇぇぇっ!!」

 すぐに太刀を装備し、漆黒の機体に斬撃を入れる。だが漆黒の両刃大剣で防がれる。
そしてその剣の先端がアルファードの胸部に切れ目を入れた。
 以前のエインヘイトとは全然違う、夜城の技能そのものに、さらに機体性能が加わっている。

暁「ぐっ!」
レドナ「鳳覇、話がある。
    明日の朝、日の出頃にマンションの屋上に一人で来い。」
暁「その前に輝咲を返しやがれぇっ!!」

 漆黒の機体に太刀を振り下ろした。だが、すぐにかわされ、相手の両刃剣の斬撃が腹部を直撃した。
腹部の装甲が粉々に砕け、アルファードはそのまま上向きに倒れた。

レドナ「榊の身の安全は俺が保障する。
    だから明日、必ず来い。」
暁「待て、夜城!!」

 夜城はそれだけ言うと漆黒の機体と共に闇に消えていった。

暁「輝咲・・・・・。」

 倒れたアルファードの中で俺は涙を流した。こみ上げてくる怒り。自分の無力さ。

暁「輝咲ああぁぁぁぁっ!!!」

 俺は思いっきりアルファードのコクピットを叩いた。


 -12/27 AM06:30 福岡県某所 マンション 屋上-

レドナ「来たか・・・・鳳覇。」

 屋上のドアを開けると、夜城が出たばかりの朝日を見つめていた。黄金色の屋上で、俺は夜城に近づいた。

暁「輝咲を返せ・・・。」
レドナ「今はできない、だが・・・。」
暁「なら、力付くで取り返してやる・・・・!!」

 この質問に頷かなかった場合、俺はこうすることを決めていた。
 屋上の手すりに手をかけ、飛び降りた。

暁「来いっ!アルファードォッ!!」

 上空に青い円が描かれ、アルファードが飛び降りた俺を受け止めた。
 ドライヴァーが窮地のとき、念じればその機神は独自のワープ空間を形成してドライヴァーを助けに来る。
それを応用した作戦だ。

レドナ「やるしかないか・・・・。」

 夜城も屋上から飛び降りた。

レドナ「出でよ!!」

 昨夜の漆黒の機体が同じく上空の青い円から現れ、夜城を受け止めた。
 2機の機神は日の出の太陽に黄金色に染まっていた。

暁「うおおおぉぉぉぉっ!!」

 俺はアルファードに乗り込み、漆黒の機神に掴みかかった。
夜城も急いで乗り込んだ。アルファードは掴んだまま漆黒の機神を海上まで押し出した。
 海上ならばどれだけ戦っても民家に被害は及ばない。

レドナ「あそこで戦えば被害が出る、それを踏まえてあの場所で会うのを選んだが・・・、無駄だったか。」

 俺は掴んでいる機神を海面に投げ飛ばした。そして両手に太刀を装備して襲い掛かった。
相手も漆黒の両刃剣を背中から取り出し、それに応戦する。

暁「輝咲を、返しやがれぇぇっ!!」
レドナ「やるしかないかっ!!」

 太刀と両刃剣がぶつかり合い、火花を散らした。御互いの剣も日の光で眩く輝いていた。


EP10 END


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